ランニング中の交通事故の過失割合

昨今、市民マラソンへの参加や健康維持等の目的で、街中をランニング、ジョギングする人が増え、それに伴い、自動車との交通事故に巻き込まれるケースも増えてきています。そこで、今回は、ランニング中に発生した事故を題材に、皆さんに安全にランニングをしてもらえるよう、ランニング中の注意点を示したいと思います。

過去の裁判例

  Xは直線道路の路側帯の中を両耳にイヤホンを装着して音楽を聴きながらランニングしていた際に、車道に大きく侵入し、後方から走行していたYの運転する自動車と衝突し、Xは外傷性頸椎ヘルニア、頸椎捻挫等の傷害を負った。
  Yは、衝突前、Xの後方36メートルの地点でXに気づき、その動静に違和感を覚えて減速し、さらにセンターライン寄りに走行し、後方約20メートルの地点で数回クラクションを鳴らしXに注意喚起をしていたが、Xはそのクラクションに気づかず、さらにYはXがクラクションに気づいていない様子であることも認識していた(さいたま地判平成30年9月14日自保2034号147頁)。

過失割合はどのように判断されたのか?

 X対Y=40対60

なぜこのような過失割合の判断となったのか?

  1. Yは、歩行者であるXの動静に違和感を覚え、また、クラクションに気づいていない様子であることも認識していたが、十分に徐行することなく、その側方を通過しようとしたため、車道内に進入したXを回避することができなかった。
  2. Xは通行するに十分な幅員を有する路側帯をランニングしていた。
  3. Xは両耳にイヤホンを装着して音楽を聴いていたため、Y車両のクラクションによる注意喚起に気づかず、Y車両が直近に至った時点で、後方確認をすることなく車道内に大きく侵入し、センターライン付近に至ってYと衝突。

まとめ

歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯と車道の区別のある道路で、歩行者が車道にはみ出したために発生した事故では、歩行者にも一定の過失が認められるケースが多いです。そして、今回紹介した事案はその中でも歩行者の過失がとりわけ大きく認められた事案です。
すなわち、今回の事案では、Xの存在に気づきながら、その側方を通行する際に徐行をしなかったYの過失が認められていますが、Xはイヤホンで両耳を塞いで音楽を聴き、クラクションに気づきにくい状態にあったにもかかわらず、後方を確認せず車道に侵入したことが大きく考慮されています。
ランニングをする際に、イヤホンを装着することは、よく行われていることであり、それ自体否定されることではありませんが、イヤホンを装着する際は、それにより周囲の音が一定程度遮断され、クラクション等の注意喚起に気づきにくくなることも頭に入れる必要があります。特に最近は、ワイヤレスのイヤホンが増え、歩行者がイヤホンを装着していること自体自動車運転者に認識できない場合も多々あります。そのような場合であっても、クラクションは前方通行者への注意喚起のために行うものであるにもかかわらず、歩行者がイヤホンを装着していて、後方の車両の注意喚起に気づきづらい状態にある可能性を常に念頭に置いて運転者は車両を運転しなければならないとするのは、公平に反するものと言えます。
それゆえ、イヤホンを装着してランニングをすること自体は否定されることではありませんが、歩行者は、それにより後方走行車両の存在に気づきにくくなることを念頭に、後方確認をより意識して行う必要があるといえます。

最後に

大阪A&M法律事務所の弁護士は、これまで数々の交通事故事件を解決してきました。ランニング中やランナーと交通事故に巻き込まれた際は、是非当事務所の経験豊富な弁護士にご依頼ください。