高齢者の後遺障害逸失利益について

1 はじめに

高齢者の方(65歳以上の方)が交通事故に遭われたときに、若い方に比べて、怪我が重篤化したり、治りが遅かったりして、怪我等が後遺障害として残存する可能性が高いです。

そこで、本稿では、高齢者の方が交通事故の被害に遭い、後遺障害が残存した場合の、後遺障害逸失利益についてご紹介します。

2 逸失利益についての基本的な考え方

後遺障害逸失利益とは、被疑者に後遺障害が残存し、労働能力が喪失するために将来の収入が減少したことをいいます。

後遺障害逸失利益の計算方法は、以下のとおりです。

後遺障害逸失利益=①被害者の基礎収入×②労働能力喪失率×③ライプニッツ係数
  1. は、被害者である高齢者の方の事故直近の収入を参考にします。また、家事労働を行っている方の場合には、賃金センサスの平均賃金を基礎収入とする場合があります。
  2. は認定された後遺障害等級に応じて割合が変わってきます。
  3. ライプニッツ係数とは、中間利息控除といって、将来もらえる賠償金を前倒しでもらうために、利息分を控除するという考え方で、労働能力喪失期間に応じて、数字は変わります。

3 逸失利益における高齢者特有の問題

高齢者の方の逸失利益を検討するにあたり、以下の点が必ずといっていいほど問題となります。

まずは、①高齢者の方は、就労せずに年金等で生活する場合も多く、また自分のために家事労働をされている方が多く、高齢者の基礎収入がいくらなのかにつき、争いとなることがあります。特に、家事従事者として認定されるには、「他人のために家事を行っているといえるか」が問題となってきます。

そして、②年齢を重ねるにつれて肉体的に労働が難しくなったり、既往症があるために、既に一定程度の労働能力の喪失が認められる場合があります

そこで、将来にわたる収入の減少が認められるのか、認められるとしてもどの程度認められるのかという問題があります。

また、③労働能力喪失期間の終期は就労が可能と考えられる年齢まで認定されることになりますが、高齢者の方の就労可能年数の終期が問題となることがあります。

以下、順に説明します。

①高齢者の基礎収入について

勤労夫婦世帯の場合と異なり、退職後の高齢者夫婦世帯の場合や息子・娘夫婦と同居している高齢者の場合など、高齢者の生活形態には様々なものがあります。

高齢者夫婦2人暮らしの場合には、妻の基礎収入につき、壮年期の主婦よりも家事労働の負担が軽減されていると考えられ、年齢別平均賃金を一定程度減額したりするなどして基礎収入を算出することが多いです。

また、過去の裁判例においては、高齢者夫婦世帯が行っている家事労働は自ら生活していくための日常的な活動と評価され、基礎収入として評価できないと判断したものもあります。

このように、高齢者の基礎収入は、若い主婦に比べて低い金額が認定される可能性が高いです。

年金受給者の基礎収入はどう扱われるのか?

年金受給者が交通事故で亡くなった場合には年金が逸失利益として算定されるかという問題があります。

結論としては、老齢・退職年金は逸失利益として認められます。その際、逸失利益が認められる期間は平均余命期間とされます。年金収入のみで生活をしていた方については生活費控除率は通常より高く算定されることが多いです(例えば、60%)。

計算式

年金額×(1-生活費控除率)×平均余命期間のライプニッツ係数

年金受給をしながらパートなどの収入もあったという高齢者の場合、就労可能期間まではパート収入と年金額の合算を基礎収入と考え、就労可能期間以降の平均余命期間までの間は年金額のみを基礎収入と考えて逸失利益を算定します。

年金保険料の払い込みをしていたものの未だ年金受給を開始しないうちに死亡した場合、直ちに年金の逸失利益が否定されるわけではありません。この場合、年金開始時期から平均余命期間の間に受け取れるはずであった年金額が逸失利益となります。

もっとも、予想される年金受給額が低額(年間数十万程度)であると、年金収入が生活費に費消される割合が高いことと相まって、逸失利益性を否定する裁判例もあります。

②高齢者の逸失利益について

高齢者の方は、交通事故で怪我をする前から既往症(関節可動域制限がすでにあったり、神経症状があったり等)があるケースが少なくありません

過去の裁判例においては、逸失利益の算定において、既往症等の健康状態に応じて、もともと労働能力が一定程度喪失しているものと認定し、逸失利益を減額するケースもあります。

もちろん、既往症があれば直ちに逸失利益を減額するということではありませんが、後遺障害の内容に応じて、詳細な検討が必要な場合があります

③高齢者の労働能力喪失期間について

逸失利益を算定する際の就労可能年数は、通常67歳までと考えられています。

ただし、年長者に関しては、67歳までの年数と平均余命までの年数を2分の1にした数字を比較し、長いほうを労働能力喪失期間とします

例えば、また、高齢者が家事従事者である場合で、かつ高齢者夫婦の場合は、夫が先にお亡くなりになり、妻が「他人のために家事を行っている」とはいえなくなるような場合が多いため、高齢者の妻の逸失利益の算定であっても、夫の平均余命までの年数を2分の1が労働能力喪失期間とされるケースがあります

4 交通事故の損害賠償請求については弁護士にご相談を

以上では、高齢者の後遺障害逸失利益について、よく争われる項目についてご紹介しましたが、これらの問題以外にも被害者の方の個別事情に応じて、様々な検討を重ねて、後遺障害逸失利益は算定されます。

弁護士にご依頼いただいた場合、加害者加入の保険会社との交渉や訴訟提起等一切を引きうけ、当該事故の具体的な態様を踏まえ、適切な後遺障害逸失利益を請求することができます。交通事故の被害に遭われたら、まずは、弁護士にご相談ください。