損害論⑨・後遺障害逸失利益(労働能力喪失率)

交通事故の被害に遭い、交通事故に基づく損害を加害者ないし保険会社に請求する場合、具体的な損害額がいくらであるかということが争いになります。今回は、その中でも後遺障害逸失利益(労働能力喪失率)について解説致します。

 

1 後遺障害逸失利益とは

逸失利益とは、不法行為がなければ被害者が得たであろう経済的利益を失ったことによる損害をいいます。後遺障害による逸失利益の損害額は、【収入額(年収)】×【労働能力喪失率】×【中間利息控除係数】で計算します。

 

2 労働能力喪失率

 労働能力喪失率とは、後遺障害が残存したことによる労働能力の喪失を割合で表したものです。この労働能力喪失率は、労災実務のための通達により、基本的な値が定められています。例えば、後遺障害の程度として最も軽い第14級の場合には労働能力喪失率は5%であり、一方で後遺障害の程度として最も重い1級の場合には、労働能力喪失率が100%となっています。

 もっとも、醜状障害、変形障害などの後遺障害については、後遺障害が発生していても労働能力は喪失していないと認定されることがあります。

 

3 判例

 東京地裁平成14年6月20日判決は、女性・看護師の後遺障害(顔面醜状痕・7級)の事案につき、「前額部の線状痕については、前髪を上げ、化粧をしない状態では若干目立つことが認められるが、それ自体が顔面の運動障害や機能障害をもたらすものとは認められない。また、看護婦という原告の職業の専門性からすれば、前額部の線状痕を直接の原因とする減収や失職のおそれはないと考えられる。・・・各線状痕は原告の労働能力に直接の影響をもたらすものとはいえず、労働能力喪失による逸失利益を認めることはできない。」と判示し、原告の顔面醜状痕の態様及び職業の専門性からして、逸失利益は認められないと判断しました。

 もっとも、上記判決は、「原告は、手術の立会い中は、前髪を含めて頭髪をすべて手術帽で覆わなければならないため、線状痕のある前額部を出さなければならず、それ以外の場面でも、看護婦という職業柄、患者と間近で接しながら仕事をすることが多いものと考えられる。そうすると、原告が、前額部の線状痕の存在を気にして、対人関係や対外的な活動に消極的になることはあり得ないではなく、これが間接的に労働の能率・意欲に影響を及ぼすことも考えられるから、この点は慰謝料の加算事由として斟酌すべきである。」と判示し、間接的に労働の能率・意欲に影響を及ぼすことから、これを慰謝料で考慮すべきであると判断しました。

 

4 最後に

 交通事故における損害額の計算は、一般の方には判断が難しいものと思います。当事務所にご依頼いただければ、妥当な損害額を判断し、加害者及び保険会社に対し適正な額を主張致します。

大阪A&M法律事務所では交通事故の被害者の方の相談をお待ちしております。