交通事故後遺障害等級認定・むちうち損傷で12級13号か14級9号か

むちうちとは

いわゆるむち打ち症とは、追突等によって頭部が前後、又は左右等に振られることにより、頚部の軟部組織等が損傷されることをいいます。診断名としては、外傷性頚部症候群、頚椎症、頚椎捻挫、頚部挫傷等と付けられ、交通事故の怪我の中で最も多い怪我の一つです。

そして、むち打ち症が長期間にわたり残存する場合もあり、お仕事や日常生活に影響を与えることも少なくありません

そこで、本稿では、主に、どのような場合にむち打ち症が自賠責の後遺障害等級に該当するのかについてご紹介します。

交通事故とむちうち損傷

交通事故、特に追突事故に遭った場合には、多くの被害者の方が、頚部の痛みや違和感、上肢の痺れや疼痛などの症状が出現し、頸椎捻挫(いわゆるむち打ち損傷)と診断されます。

病院を受診すると、レントゲンを撮影されますが、頚椎のアライメント(並び)がストレート(まっすぐ)、頚椎が少し痛んでいるなどといった交通事故とは直接関係のない所見を指摘されることはあっても、基本的には、レントゲン上は、問題がないという診断を受けます。

その後、通院を続けると、多くの方は、1か月から3か月程度で、症状がほぼなくなり、治癒するという経過をたどります。

このように、症状がなくなってしまえば、あとは、通院の慰謝料や休業損害といった賠償の話を交通事故加害者側の保険会社と交渉し、解決を目指すことになります。

もっとも、一定程度の割合で、交通事故から半年近く経過しても、症状が軽快せず、痛みやしびれに悩まれる交通事故被害者の方がいらっしゃるのも現実です。

もちろん、その後も、治療を継続し、症状の改善を目指すということが理想的なのですが、加害者側の保険会社から、そろそろ症状固定ではと病院への治療費の支払いを停止されたり、主治医からも治療の打ち切りの話をされたりすることが多いです。

 むち打ち症の治療期間について

むち打ち症の病態は様々で、その原因も医学的に解明されておらず、科学的根拠に基づく診断指針も確立していません。

そのため、保険会社側は、むち打ち症が単なる軟部組織の損傷であるという理由をもって、事故から3か月ないし6か月で完治していると主張する場合が多いです。

しかしながら、過去の裁判例においても、事故の衝撃が大きいことや治療経過を詳細に検討した結果、6か月を超える治療期間を認めたケースもあり、保険会社の対応を直ちに鵜吞みにするべきではない場合もあります。主治医の先生と、治療期間についてきっちりお話いただくべきです。

自賠責における後遺障害等級の認定について

むち打ち症の治療を開始してから6か月を経過しても、頚部痛、頚部不快感、頭痛、背部痛、上肢のしびれ、脱力感等の症状が残っているときには、「神経系統の機能障害・精神障害」の一つとして、自賠責における後遺障害として認定される可能性があります。

これらの症状が残存している場合に認定される可能性があるのは、後遺障害等級第12級第13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」又は後遺障害等級第14級第9号「局部に神経症状を残すもの」のいずれかです。

後遺障害等級第12級第13号は、画像所見などの他覚的所見により医学的に証明しうるものをいい、画像所見等により異常が確認できる場合にのみ認定される傾向にあります。

これに対し、後遺障害等級第14級第9号は、画像所見等から異常を確認することはできないが、受傷時の状況や治療の経過などから、神経症状の連続性・一貫性が認められ、医学的に説明可能な症状であると判断され、単なる故意の誇張ではないと認められる場合に認定されることがあります。

そして、症状固定時において神経症状が残存していた場合には、画像から神経圧迫の存在が認められ、かつ圧迫されている神経領域に知覚障害などの神経学的異常所見が確認された場合には、医学的証明があったとされやすく、後遺障害等級第12級第9号が認定されやすくなります。

そこで、神経症状について、画像所見及び神経学的検査所見を取得することに努めるべきということになります。

交通事故後遺障害等級認定(12級13号と14級9号)

いずれにせよ、症状固定ということになると、後遺障害診断書を主治医に作成してもらい、後遺障害の等級認定の手続に進めることになりますが、頸椎捻挫で獲得できる等級は、最大限認められて12級13号、通常は、14級9号か非該当となるのが現状です。

では、頸椎捻挫(むちうち損傷)での後遺障害等級認定で、12級13号、14級9号、非該当の違いはどこから生じるのでしょうか。

ここで、12級13号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」、14級9号は「局部に神経症状を残すもの」とされておりますが、一般的には、明らかな神経症状が残存していることを前提に、MRIなどの画像検査等の他覚的な所見が認められるものが12級13号、他覚的所見に乏しいものは14級9号、神経症状の残存が客観的にあきらかと言えないものが非該当といった様に判断されております。

後遺障害等級認定で12級13号、14級9号、非該当のいずれに認定されるかは、賠償額に大きな影響を与えます。後遺障害等級認定の申請や異議申立に当たっては、交通事故事案に詳しい弁護士にご相談下さい。

当法律事務所では、医師資格を有し交通事故案件の経験豊富な代表弁護士と、大阪弁護士会交通事故委員会所属の交通事故案件の経験豊富な女性弁護士で対応をします。

神経学的検査の例

後遺障害等級第12級第13号の認定を受けるためには、神経学的検査所見が重要になります、

神経学的検査は、具体的には以下のものが挙げられます。

  • 腱反射(ハンマーで反射を確認する検査)
  • 筋萎縮(それぞれの筋肉の周径を計測し、左右差を確認する検査)
  • 徒手筋力テスト(重力の負荷をかけて関節可動域の最終点で最大の力を出してもらい、検査者が抵抗を加える検査)
  • その他部位に応じた神経学的検査(ジャクソンテスト、スパーリングテスト等)

神経症状に改善が見られない場合には、これらの検査を受けていただき、神経学的に異常所見があることを後遺障害診断書に記載してもらうことで、自賠責の後遺障害等級の獲得につながることになります。

腱反射(ハンマーで反射を確認する検査)

腱反射検査は、腱をゴムのハンマーでたたいて刺激を与え、反射(筋収縮)の有無を確認するテストのことをいいます。脚気の検査等でも用いられますが、正常な場合、膝頭をハンマーでたたくと脚がはねあがります。脊髄または末梢神経に異常がある場合は反射が低下または消失します。

むち打ちの頸椎捻挫についての腱反射テストでは、上腕二頭筋腱反射、上腕三頭筋腱反射、腕橈骨筋反射を重点的に確認します。

反応は患者が意図的に操作できないものであり客観的に測定ができるので、後遺障害等級認定において重要視されているテストです。

筋萎縮(それぞれの筋肉の周径を計測し、左右差を確認する検査)

むち打ちや頚椎捻挫で神経を損傷した場合、その支配領域である腕や手にしびれが生じることがあります。しびれが片方の腕や手に出ることも多く、その場合、しびれが出ない側の腕と手ばかりを無意識的に使ってしまいます。

そうすると、使わなくなった側の腕や手の筋肉がやせ細ってしまいますが、筋萎縮テストはこれに着目した検査となります。

具体的には、両肘関節の上下10cm部分について上腕部と前腕部の周径を計測してテストをします。

患者がしびれや痛みを訴えている側の腕が、もう片方と比べて数値として細くなっている場合、実際にしびれや痛みが生じていることの客観的な証拠とすることができます。患者や検査者の主観に左右されないので、重要な後遺障害等級認定検査であるとされています。

徒手筋力テスト

徒手筋力テストは、MMTとも略され、神経の障害により筋力の低下が生じているかどうかを、患者と検査者と力比べをすることにより測定する検査です。

検査結果は、5(正常)から0(筋収縮なし)の6段階で測定し、どこの筋肉に筋力低下が生じているかを確認します。神経根の障害部位によってそれぞれ、筋力低下がみられる筋肉の場所が異なります。

ジャクソンテスト

ジャクソンテストは、頸部の神経根障害の有無を検査するものです。方法としては、患者が椅子にすわった状態で、医師等検査をする人が後ろにまわり患者の頭部分を後ろに倒しつつ圧迫を加えます。

この時に、肩や上腕、前腕、手などに痛みやしびれがある場合、テスト結果は陽性となります。

スパークリングテスト

スパーリングテストも、ジャクソンテストと同様、頸部の神経根障害の有無を調べる検査になります。

患者が頭部を後ろに反らせながら左右に傾けたところに、医師等検査者が圧迫を加えて、神経根の出口をせばめます。その状態で、肩、上腕前腕、手などに痛みやしびれがでるかを確認します。

ジャクソンテストとスパーリングテストは、テスト実施時の患者の主観がテスト結果になるので、後遺障害認定において決定的な証拠ではないとはいわれていますが、特定の部位に神経症状があることを患者が自覚していることを示すことができるので、後遺障害等級認定にあたってはぜひとも実施しておくべきでしょう。

自賠責における後遺障害等級が認定された場合

自賠責により、後遺障害等級第12級第13号又は第14級第9号が認定された場合には、加害者に対する損害賠償の額が増えます。

具体的には、大阪弁護士会交通事故委員会が作成した「交通事故損害賠償額算定のしおり」(通称「緑本」といいます。)によると、後遺障害等級第12級第13号が認定された場合の後遺障害慰謝料は金280万円、後遺障害等級第14級第9号が認定された場合の後遺障害慰謝料は金110万円、後遺障害等級非該当の場合には、後遺障害慰謝料は0円となりますので、賠償額に大きな違いが出てきます。

なお、怪我をして、入通院した場合には別途入通院慰謝料という慰謝料請求することが可能です。

また、後遺障害による逸失利益の算定において、後遺障害等級第12級第13号の場合には、労働能力喪失率は14パーセント、労働能力喪失期間は5年から10年、他方、第14級第9号の場合には、労働能力喪失率は5パーセント、労働能力喪失期間は3年から5年となりますので、後遺障害等級第12級第13号か第14級第9号のいずれかが認定されるのかによって、賠償額が大きく変わってきます。

総括

以上では、むち打ち症の場合に、後遺障害等級第12級第13号が認定されるかについてご紹介しましたが、これらの問題以外にも被害者の方の個別事情に応じて、様々な検討を重ねて、後遺障害逸失利益等の損害額が算定されます。

当事務所には、整形外科医としての経験が豊富な弁護士がおり、外傷による神経症状に関する知識が豊富です。

さらに、弁護士にご依頼いただいた場合、加害者加入の保険会社との交渉や訴訟提起等一切を引きうけ、当該事故の具体的な態様を踏まえ、適切な後遺障害逸失利益を請求することができます。交通事故の被害に遭われたら、まずは、弁護士にご相談ください。