腰椎捻挫で認められる等級と認定のポイント

1 はじめに

腰椎捻挫とは、交通事故等の強い衝撃が腰部に加わり、前後又は左右等に振られることにより、腰部の軟部組織等が損傷されることをいいます。骨自体には損傷はない怪我で、腰を動かしたときに腰に痛みなどの神経症状が生じるもので、交通事故の怪我の中で最も多い怪我の一つです。

そして、腰椎捻挫が長期間にわたり残存する場合もあり、お仕事や日常生活に影響を与えることも少なくありません

そこで、本稿では、主に、どのような場合に腰椎捻挫が自賠責の後遺障害等級に該当するのかについてご紹介します。

2 腰椎捻挫の治療期間について

腰椎捻挫の病態は様々で、その原因も医学的に解明されておらず、科学的根拠に基づく診断指針も確立していません。

そのため、保険会社側は、腰椎捻挫が単なる軟部組織の損傷であるという理由をもって、事故から3か月ないし6か月で完治していると主張する場合が多いです。

しかしながら、過去の裁判例においても、事故の衝撃が大きいことや治療経過を詳細に検討した結果、6か月を超える治療期間を認めたケースもあり、保険会社の対応を直ちに鵜吞みにするべきではない場合もあります。主治医の先生と、治療期間についてきっちりお話いただくべきです。

3 神経学的検査の例

後遺障害等級第12級第13号の認定を受けるためには、神経学的検査所見が重要になります、

神経学的検査は、具体的には以下のものが挙げられます。

  • 腱反射
  • 筋萎縮(それぞれの筋肉の周径を計測し、麻痺などがあるかどうかを左右差を確認する検査)
  • 徒手筋力テスト(重力の負荷をかけて関節可動域の最終点で最大の力を出してもらい、検査者が抵抗を加える検査)
  • その他部位に応じた神経学的検査(ラセーグテスト、ブラガードテスト等)

神経症状に改善が見られない場合には、これらの検査を受けていただき、神経学的に異常所見があることを後遺障害診断書に記載してもらうことで、自賠責の後遺障害等級の獲得につながることになります。

腱反射

まず、腱反射テストとは、筋肉の反射を調べる目的で、筋委縮の反応の確認を行う検査です。文字通り、反射を確認する検査になりますので、結果の客観性が高いといえ、後遺障害等級認定について重要な資料となりえます。大腿部の神経根(L2、L3、L4)に異常がある場合に、陽性反応が出ます。MRIの補強検査としても行われます。

腱反射テストの具体的な方法として、腱の部分をゴム製のハンマーなどでたたき、筋肉が反射的に収縮する程度を確認します。

健常な場合、膝頭の皿の下にあるくぼみ部分を叩くと脚が反射で跳ねあがるのですが、腰椎捻挫により神経障害がある場合にはそのような正常な反射がありません。よって、神経に障害がある可能性が高いことが確認できます。

筋萎縮

筋萎縮検査とは、筋肉が萎縮しているかどうか及び委縮している場合にはその程度を調べるための検査です。腰椎捻挫を患うと、患部の痛みやしびれ等の症状を無意識にかばいながら日常生活を送ることとなってしまいます。

そのために、普段動かさない箇所の筋肉が衰えて細くなってしまい委縮が生じます。筋萎縮検査の方法として目視や触診などにより確認する場合もありますが、一般的には、膝関節部分の上下10cmの箇所について、両側の大腿周径と下腿周径を計測して行います。

この部分の計測結果が小さくなっている場合には神経障害が認められるといわれています。しびれがある側の足がしびれのない側の足と比較して痩せて小さくなっていれば、しびれの存在についての自己申告とあわせて証拠とすることができます。

徒手筋力テスト

徒手筋力テストは、手で筋肉の力を評価する検査のことです。検査の目的は、腰椎捻挫による神経障害のために筋力が低下している程度を確認するためです。

テストしたい筋肉に特定の動作をさせて、その動作を行うために必要となる筋力を評価します。

徒手筋力検査においては、以下のような指標をおき、5以外の結果が出た場合には、何かしら神経に異常があるものと診断されることとなります。

なお、テストの性質上、診断結果は医師によってばらつきが生じがちですので、診断結果に疑問を感じた場合は、セカンドオピニオンをとることも一つです。

  • 指標5:強い抵抗を与えても、可動域内を完全に動かせる
  • 指標4:抵抗を与えても、可動域内を完全に動かせる
  • 指標3:抵抗を与えなければ、重力に対して可動域内を完全に動かせる
  • 指標2:重力を除けば、可動域内を完全に動かせる
  • 指標1:筋肉の収縮はみられるが、関節を動かすことができない
  • 指標0:筋肉の収縮さえも見られない

4 自賠責における後遺障害等級の認定について

腰椎捻挫の治療を開始してから6か月を経過しても、腰部痛、腰部の不快感、下肢のしびれ、脱力感等の症状が残っているときには、「神経系統の機能障害・精神障害」の一つとして、自賠責における後遺障害として認定される可能性があります

これらの症状が残存している場合に認定される可能性があるのは、後遺障害等級第12級第13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」又は後遺障害等級第14級第9号「局部に神経症状を残すもの」のいずれかです。

後遺障害等級第12級第13号は、画像所見などの他覚的所見により医学的に証明しうるものをいい、画像所見等により異常が確認できる場合にのみ認定される傾向にあります。

これに対し、後遺障害等級第14級第9号は、画像所見等から異常を確認することはできないが、受傷時の状況や治療の経過などから、神経症状の連続性・一貫性が認められ、医学的に説明可能な症状であると判断され、単なる故意の誇張ではないと認められる場合に認定されることがあります。

そして、症状固定時において神経症状が残存していた場合には、画像から神経圧迫の存在が認められ、かつ圧迫されている神経領域に知覚障害などの神経学的異常所見が確認された場合には、医学的証明があったとされやすく、後遺障害等級第12級第9号が認定されやすくなります。

そこで、神経症状について、画像所見及び神経学的検査所見を取得することに努めるべきということになります。

ラセーグテスト

ラセーグテストとは、腰椎神経根の障害を検査するための誘発テストです。神経根とは、脊髄から枝分かれしている末梢神経のことをいいます。

このテストの結果が陽性の場合には、後遺障害の立証の有力な証拠になるといわれています。ラセーグテストは徒手検査で機械などは使用せずに行います。

まず患者が仰向けになり股関節と膝関節を90度に曲げた状態から、医師などの検査者が膝関節を少しずつ伸ばしていきます。腰椎神経根に障害がある場合には、検査の途中で下肢痛が生じるために、膝関節を途中で伸ばしきれなくなります。この場合、陽性という結果になります。

なお、陽性の場合には、誘発が進展のどの段階で発生したのかを示すため、度数で結果が表示されます。

ブラガードテスト

ブラガードテストとは、根性坐骨神経痛の有無を検査するためのテストです。神経根が、交通事故の衝撃などで圧迫されて損傷があると、臀部から下肢の後面、外側について痛みやしびれが起きることがあり、これを根性坐骨神経痛といいます。

ブラガードテストをするにあたっては、まず先に下肢伸展挙上テストという検査を行います。下肢伸展挙上テストでは、まず寝た状態から膝を伸ばしたまま脚を少しずつあげていき、痛みが出る場所を特定します。

そして、ブラガードテストでは、膝を伸ばしたまま股関節を曲げて脚を持ち上げ、特定された痛みが出た箇所から5度角度を下げて脚を下ろして、足関節を背屈(つま先をあげる)させます。

この時に坐骨神経ラインに痛みやしびれが出た場合は、ブラガードテストが陽性という判定となります。

5 自賠責における後遺障害等級が認定された場合

自賠責により、後遺障害等級第12級第13号又は第14級第9号が認定された場合には、加害者に対する損害賠償の額が増えます

具体的には、大阪弁護士会交通事故委員会が作成した「交通事故損害賠償額算定のしおり」(通称「緑本」といいます。)によると、後遺障害等級第12級第13号が認定された場合の後遺障害慰謝料は金280万円、後遺障害等級第14級第9号が認定された場合の後遺障害慰謝料は金110万円、後遺障害等級非該当の場合には、後遺障害慰謝料は0円となりますので、賠償額に大きな違いが出てきます

なお、後遺障害非該当の場合であっても、怪我をして入通院した場合には別途、入通院慰謝料という慰謝料を請求することが可能です。

また、後遺障害による逸失利益の算定において、後遺障害等級第12級第13号の場合には労働能力喪失率は14パーセント、労働能力喪失期間は5年から10年、他方、第14級第9号の場合には、労働能力喪失率は5パーセント、労働能力喪失期間は3年から5年となりますので、後遺障害等級第12級第13号か第14級第9号のいずれかが認定されるのかによって、賠償額が大きく変わってきます。

6 総括

以上では、腰椎捻挫の場合に、後遺障害等級第12級第13号が認定されるかについてご紹介しましたが、これらの問題以外にも被害者の方の個別事情に応じて、様々な検討を重ねて、後遺障害逸失利益等の損害額が算定されます。

当事務所には、整形外科医としての経験が豊富な弁護士がおり、外傷による神経症状に関する知識が豊富です。

さらに、弁護士にご依頼いただいた場合、加害者加入の保険会社との交渉や訴訟提起等一切を引きうけ、当該事故の具体的な態様を踏まえ、適切な後遺障害逸失利益を請求することができます。交通事故の被害に遭われたら、まずは、弁護士にご相談ください。