家事従事者の休業損害について

1 はじめに

休業損害は、怪我の治療が終了するまで又は症状固定となるまでに発生する就労不能ないし通常の就労ができないことにより生じる減収を損害とするものです。

すなわち、給与所得者や個人事業主が、怪我の治療のために仕事を休み、給料や所得が減少した場合に、その減少した給料や所得相当額を事故の加害者に請求できるという考え方です。

他方、家事従事者、特に専業主婦は収入自体発生しませんので、上記の考え方に従うと休業損害は発生しないようにも思えます。

しかしながら、実際には、家事従事者が怪我をして、主婦業が行えない場合には、休業損害が発生すると考えらえており、多くの裁判例や示談交渉においては家事従事者の休業損害は認められています。

そこで、本稿では、家事従事者の休業損害についてご説明します。

2 休業損害について

まずは、一般的な休業損害の算定方法について、ご説明します。

基本的には、1日あたりの収入を算出して、休業した日数を乗じた金額が休業損害となります。

休業損害収入額/日×休業日数

また、身体機能の回復に伴って、一定期間は労働能力の喪失の程度を考慮して休業損害を認定することもあります。

一定程度就労できる期間の休業損害収入額/日×その期間の日数×労働能力喪失率

3 家事従事者について

まず、家事従事者とは、性別・年齢を問わず、現に家族のために家事労働に従事する者をいいます。

家事労働は、家族以外の者を雇う場合、例えば、家政婦を雇う場合には一定の報酬が発生しますので、家事を行う家族がいれば相当額の金銭による対価の支払いをしなくて済んでいると考えることができます。

したがって、家事従事者は、報酬相当の利益を家族のために確保しているということができるので、家事労働による金銭的利益を得ているのと同視することができます。

このような考えから、家事従事者は収入がなくても、怪我により家事が行えない期間につき、休業損害を請求することができると考えられています。

気を付けなければいけないのは、家事従事者は、家族のために家事労働に従事する者をいいますので、例えば、一人暮らしをしており、自分以外の家族のために家事従事をしているとはいえない人に関しては上記の考え方はあてはまらず、家事従事者の休業損害を請求することはできません。

4 家事従事者の収入について

次に、家事従事者の収入額についてですが、女性労働者の平均賃金(賃金センサスの学歴計の全年齢平均賃金又は年齢別平均賃金を用いて決定します。

平成30年平均賃金センサス(女性・学歴計・全年齢平均)は382万6300円とされていますので、こちらの金額が家事従事者の基礎収入となることが原則となります。

通常はこの全年齢平均賃金額を収入額と考えることが多いですが、高齢者の場合には、年齢別平均賃金が採用されることが多いです。

なお、男性の家事従事者の場合は、女性の場合と差を設けることは妥当ではありませんので、女性の家事従事者と同様に、女性の賃金センサスが採用されることが多いです。

そして、家族の中で家事を分担しているような場合、例えば、子ども夫婦と同居する親などの場合には、現実に分担している家事労働の内容や従事できる労務の程度を考慮して、家事従事における貢献度に応じて、賃金センサスから適宜減額された金額を基礎収入とすることがあります。

また、家事に従事しつつ、働きに出て給与も得ている家事従事者(いわゆる兼業主婦)に関しては、得ている給与を、女性の賃金センサスに加算するのではなく、給与の総額と賃金センサスの金額を比較し、多いほうを家事従事者の収入とすると考えられています。

5 家事従事者の休業損害に関する裁判例

ここで、家事従事者に休業損害を認定した裁判例をご紹介します。

  • 事案①:2児の養育をしていた33歳の無職の女性が事故による怪我で家事ができなくなったとして休業損害を請求した事案。
    判断:主婦として家事労働に従事していたことを認定し、賃金センサス(女性、学歴計・全年齢平均)を採用し、平均賃金約315万円を基礎として休業損害を認定しました。
  • 事案②:自宅で仕事をしながら、配偶者と家事を半分程度分担していた37歳男性が事故による怪我で家事ができなくなったとして休業損害を請求した事案
    判断:事故前の収入と賃金センサス(女性、学歴計・全年齢平均)354万円の半分の177万円を比較し、後者のほうが高いため、後者を基礎として、休業損害を認めました。

6 交通事故の損害賠償請求については弁護士にご相談を

以上では、家事従事者の休業損害について、典型的な例をご紹介しましたが、適切な休業損害を決定するにあたっては、被害者の方の個別事情を検討することが必要となります。

弁護士にご依頼いただいた場合、加害者加入の保険会社との交渉や訴訟提起等一切を引きうけ、当該事故の具体的な態様を踏まえ、適切な休業損害を請求することができます。交通事故の被害に遭われたら、まずは、弁護士にご相談ください。