むち打ち症で後遺障害等級12級が認定されるケースについて
1 はじめに
いわゆるむち打ち症とは、追突等によって頭部が前後、又は左右等に振られることにより、頚部の軟部組織等が損傷されることをいいます。診断名としては、外傷性頚部症候群、頚椎症、頚椎捻挫、頚部挫傷等と付けられ、交通事故の怪我の中で最も多い怪我の一つです。
そして、むち打ち症が長期間にわたり残存する場合もあり、お仕事や日常生活に影響を与えることも少なくありません。
そこで、本稿では、主に、どのような場合にむち打ち症が自賠責の後遺障害等級に該当するのかについてご紹介します。
2 むち打ち症の治療期間について
むち打ち症の病態は様々で、その原因も医学的に解明されておらず、科学的根拠に基づく診断指針も確立していません。
そのため、保険会社側は、むち打ち症が単なる軟部組織の損傷であるという理由をもって、事故から3か月ないし6か月で完治していると主張する場合が多いです。
しかしながら、過去の裁判例においても、事故の衝撃が大きいことや治療経過を詳細に検討した結果、6か月を超える治療期間を認めたケースもあり、保険会社の対応を直ちに鵜吞みにするべきではない場合もあります。主治医の先生と、治療期間についてきっちりお話いただくべきです。
3 自賠責における後遺障害等級の認定について
むち打ち症の治療を開始してから6か月を経過しても、頚部痛、頚部不快感、頭痛、背部痛、上肢のしびれ、脱力感等の症状が残っているときには、「神経系統の機能障害・精神障害」の一つとして、自賠責における後遺障害として認定される可能性があります。
これらの症状が残存している場合に認定される可能性があるのは、後遺障害等級第12級第13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」又は後遺障害等級第14級第9号「局部に神経症状を残すもの」のいずれかです。
後遺障害等級第12級第13号は、画像所見などの他覚的所見により医学的に証明しうるものをいい、画像所見等により異常が確認できる場合にのみ認定される傾向にあります。
これに対し、後遺障害等級第14級第9号は、画像所見等から異常を確認することはできないが、受傷時の状況や治療の経過などから、神経症状の連続性・一貫性が認められ、医学的に説明可能な症状であると判断され、単なる故意の誇張ではないと認められる場合に認定されることがあります。
そして、症状固定時において神経症状が残存していた場合には、画像から神経圧迫の存在が認められ、かつ圧迫されている神経領域に知覚障害などの神経学的異常所見が確認された場合には、医学的証明があったとされやすく、後遺障害等級第12級第9号が認定されやすくなります。
そこで、神経症状について、画像所見及び神経学的検査所見を取得することに努めるべきということになります。
4 神経学的検査の例
後遺障害等級第12級第13号の認定を受けるためには、神経学的検査所見が重要になります、
神経学的検査は、具体的には以下のものが挙げられます。
- 腱反射(ハンマーで反射を確認する検査)
- 筋萎縮(それぞれの筋肉の周径を計測し、左右差を確認する検査)
- 徒手筋力テスト(重力の負荷をかけて関節可動域の最終点で最大の力を出してもらい、検査者が抵抗を加える検査)
- その他部位に応じた神経学的検査(ジャクソンテスト、スパーリングテスト等)
神経症状に改善が見られない場合には、これらの検査を受けていただき、神経学的に異常所見があることを後遺障害診断書に記載してもらうことで、自賠責の後遺障害等級の獲得につながることになります。
5 自賠責における後遺障害等級が認定された場合
自賠責により、後遺障害等級第12級第13号又は第14級第9号が認定された場合には、加害者に対する損害賠償の額が増えます。
具体的には、大阪弁護士会交通事故委員会が作成した「交通事故損害賠償額算定のしおり」(通称「緑本」といいます。)によると、後遺障害等級第12級第13号が認定された場合の後遺障害慰謝料は金280万円、後遺障害等級第14級第9号が認定された場合の後遺障害慰謝料は金110万円、後遺障害等級非該当の場合には、後遺障害慰謝料は0円となりますので、賠償額に大きな違いが出てきます。
なお、怪我をして、入通院した場合には別途、入通院慰謝料という慰謝料を請求することが可能です。
また、後遺障害による逸失利益の算定において、後遺障害等級第12級第13号の場合には、労働能力喪失率は14パーセント、労働能力喪失期間は5年から10年、他方、第14級第9号の場合には、労働能力喪失率は5パーセント、労働能力喪失期間は3年から5年となりますので、後遺障害等級第12級第13号か第14級第9号のいずれかが認定されるのかによって、賠償額が大きく変わってきます。
6 総括
以上では、むち打ち症の場合に、後遺障害等級第12級第13号が認定されるかについてご紹介しましたが、これらの問題以外にも被害者の方の個別事情に応じて、様々な検討を重ねて、後遺障害逸失利益等の損害額が算定されます。
当事務所には、整形外科医としての経験が豊富な弁護士がおり、外傷による神経症状に関する知識が豊富です。
さらに、弁護士にご依頼いただいた場合、加害者加入の保険会社との交渉や訴訟提起等一切を引きうけ、当該事故の具体的な態様を踏まえ、適切な後遺障害逸失利益を請求することができます。交通事故の被害に遭われたら、まずは、弁護士にご相談ください。